はじめに——子育て世代が直面する教育費の現実
「子どもの教育資金、どうやって準備すればいいのでしょうか」
相談業務の中で、子育て世代のご家庭から最も多く寄せられる質問の一つです。大学進学までにかかる費用は数百万円から1,000万円を超えることも珍しくありません。さらに塾の費用や私立学校への進学や海外留学を視野に入れると、準備すべき金額はさらに膨らみます。
そんな中、2027年1月から新たに「こどもNISA(仮称)」が始まる予定です。2025年12月に発表された令和8年度税制改正大綱で正式に盛り込まれ、0歳から17歳までの未成年者が利用できる非課税投資制度として注目を集めています。
独立系FPとして数多くの家計相談に携わってきた立場から申し上げると、この制度は単なる節税手段ではありません。子どもの金融リテラシー向上と教育資金の計画的な準備を同時に実現できる、極めて有効なツールになり得るのです。
こどもNISAとは——制度の全体像を理解する
基本スペック
こどもNISAは、現行のNISAの「つみたて投資枠」を18歳未満にも開放する制度です。主な内容は以下の通りです。
- 対象年齢:0歳〜17歳(18歳到達時に通常のNISA制度へ自動移行)
- 年間投資上限:60万円(月額5万円)
- 非課税保有限度額:600万円
- 非課税期間:無期限
- 投資対象商品:つみたて投資枠対象の投資信託(金融庁届出商品)
- 引き出し制限:原則12歳以降、子どもの同意を得て引き出し可能
- 開始時期:2027年1月1日(予定)
ジュニアNISAから何が変わったのか
2023年末に廃止された「ジュニアNISA」は、18歳まで原則引き出しができないという制約があり、利用が伸び悩みました。私自身、当時の制度設計の硬直性には疑問を感じていました。実際に自分の息子(5歳)のジュニアNISAはあと13年間塩漬け状態…
こどもNISAでは、この最大の欠点が改善されています。12歳以降であれば中学・高校進学時の教育費として柔軟に活用できるため、実際の教育費支出のタイミングと制度利用を合わせやすくなりました。
また、年間投資上限を60万円に設定したことで、経済格差の拡大を一定程度抑制しつつ、多くの家庭が無理なく活用できる水準に調整されている点も評価できます。
なぜ今、こどもNISAなのか——背景にある社会課題
教育費の高騰と家計の圧迫
文部科学省の調査によると、幼稚園から大学までの教育費は、すべて公立でも約1,000万円、私立の場合は2,000万円を超えるケースもあります。さらに近年は物価上昇の影響もあり、家計における教育費負担は増加傾向にあります。
金融リテラシーの世代間格差
日本の金融リテラシーは先進国の中でも低いと指摘されてきました。2024年に金融経済教育推進機構(J-FLEC)が設立され、国を挙げて金融教育の強化に取り組んでいますが、まだ道半ばです。
こどもNISAは、家族内でお金の話をするきっかけとなり、世代を超えた金融教育のツールとしても機能します。親が実際に運用を経験し、その様子を子どもに見せることで、生きた経済教育を提供できるのです。
独立系FPが考える「こどもNISA活用戦略」
基本戦略:長期・積立・分散の徹底
こどもNISAを最大限活用するには、投資の基本原則である「長期・積立・分散」を守ることが何より重要です。
シミュレーション例:0歳から18年間の積立
- 毎月5万円(年間60万円)を積立
- 想定利回り:年率4%(過去のインデックス投資の平均的リターン)
- 18年後の資産額:約1,400万円(元本1,080万円、運用益約320万円)
この運用益320万円が非課税になることの意味は大きいです。通常の課税口座であれば約64万円(20.315%)が税金として引かれますが、こどもNISAならすべて手元に残ります。
実践ポイント1:商品選びは「低コスト・分散型」
つみたて投資枠の対象商品は金融庁が厳選したものですが、その中でもポイントを押さえた選択が重要です。
- 信託報酬の低さ:年率0.2%以下のインデックスファンドを優先
- 分散の効いた設計:全世界株式型や先進国株式型がベース
- 純資産総額の安定性:規模の大きい、長期運用実績のあるファンド
特定の金融機関や商品を推奨する立場にない独立系FPだからこそ言えますが、複雑な商品や手数料の高い商品に惑わされず、シンプルで透明性の高い商品を選ぶべきです。
実践ポイント2:親のNISAとの併用で非課税枠を最大化
こどもNISAは、親のNISA(つみたて投資枠年間120万円+成長投資枠年間240万円)と併用できます。
家族全体での非課税投資戦略の例
- 父親のNISA:年間360万円(上限)
- 母親のNISA:年間360万円(上限)
- 子ども1人のこどもNISA:年間60万円
- 世帯合計:年間780万円
これだけの金額を非課税で運用できることは、長期的な資産形成において圧倒的な優位性をもたらします。もちろん、すべての家庭が満額投資できるわけではありませんが、制度を知り、可能な範囲で活用することが重要です。
実践ポイント3:出口戦略を早めに設計する
投資は「入口」だけでなく「出口」が重要です。教育費は使う時期が明確なため、出口戦略を早めに考えておくべきです。
推奨する出口設計
- 高校3年間(15〜17歳):大学進学資金が必要な2〜3年前から、資産の一部を段階的に現金化。相場変動リスクを分散。
- 大学入学時(18歳):一括で引き出すのではなく、必要な分だけを取り崩す。残りは引き続き運用。
- 18歳以降:通常のNISA制度へ自動移行。資産は引き続き非課税で運用可能。
相場の急落局面で慌てて売却することがないよう、計画的な資産の取り崩しが肝要です。
贈与税との関係——知っておくべき税務のポイント
こどもNISAを活用する際、見落としがちなのが贈与税の問題です。
基礎控除110万円の壁
親や祖父母が子どもの口座に資金を拠出する場合、年間110万円までは贈与税の基礎控除内で非課税となります。こどもNISAの年間上限60万円は、この範囲内に収まります。
ただし、複数人から贈与を受ける場合は合計額で判断されます。例えば、父親から60万円、祖父母から60万円を受け取ると合計120万円となり、110万円を超えた10万円に対して贈与税がかかる点に注意が必要です。
教育資金の一括贈与特例との併用
教育資金の一括贈与特例(最大1,500万円まで非課税)を既に利用している場合、こどもNISAとの併用については税理士に相談することをお勧めします。税制は複雑で、個別の状況によって判断が異なるため、専門家のアドバイスが不可欠です。
こどもNISAを「金融教育の道具」として活用する
独立系FPとして、私がこどもNISAに最も期待しているのは、実はこの点です。
子どもと一緒に学ぶ機会を作る
- 小学校高学年(10〜12歳):積立の仕組みや複利効果を簡単に説明
- 中学生(13〜15歳):運用状況を一緒に確認し、株式市場の動きを学ぶ
- 高校生(16〜18歳):自分で商品を調べ、投資判断に参加させる
お金の教育は、机上の理論だけでは身につきません。実際に自分名義の口座があり、資産が増減する様子を見ることで、リアルな金融感覚が養われます。
「失敗も学び」という姿勢
相場が下落したときこそ、教育のチャンスです。「なぜ価格が下がったのか」「長期で見ればどうか」といった対話を通じて、リスクとリターンの関係、感情に流されない投資判断の重要性を伝えることができます。
2027年開始に向けて今できる準備
制度開始まで約1年あります。この期間を有効に使いましょう。
ステップ1:家族で話し合う
- 教育方針と必要資金の見積もり
- 毎月いくら積立できるか
- どの金融機関を利用するか
ステップ2:金融リテラシーを高める
- 親自身が新NISAで実践し、経験を積む
- 投資信託の基本を学ぶ(金融庁のNISA特設サイト、知るぽると等を活用)
- 家計の見直しと余裕資金の確保
ステップ3:情報収集を継続する
制度の詳細は2026年中に順次明らかになります。金融庁の公式発表や、各証券会社の情報を定期的にチェックすることが重要です。
独立系FPからのメッセージ——こどもNISAは「使わない手はない」
私は特定の金融商品を販売する立場にありません。だからこそ、フラットな視点で申し上げます。
こどもNISAは、子どもの金融リテラシー向上と教育資金の準備を同時に実現できる、極めて優れた制度です。使わない手はありません。
確かに、投資にはリスクが伴います。元本保証ではありません。しかし、18年という長期間を活用できる子育て世代にとって、時間を味方につけた資産形成は、リスクを大きく上回るリターンをもたらす可能性が高いのです。
また、子どもに「お金は働かせることができる」「計画的に準備すれば夢は叶えやすくなる」という感覚を身につけさせることは、金銭的な利益以上の価値があります。
教育資金の準備方法は、学資保険、定期預金、投資信託など複数の選択肢があります。それぞれにメリット・デメリットがあり、一つの方法に固執する必要はありません。大切なのは、ご家庭の状況に合わせて適切に組み合わせることです。
その中でも、こどもNISAは税制優遇と金融教育の両面で、多くの家庭にとって有力な選択肢となるはずです。
まとめ——行動を起こすのは今
こどもNISAの開始は2027年1月ですが、準備は今から始められます。
- 制度の内容を正しく理解する
- 家族で教育方針と資金計画を話し合う
- 親自身が新NISAで投資経験を積む
- 金融リテラシーを高める学びを続ける
子どもの未来のために、そして子ども自身がお金と賢く付き合える大人になるために、こどもNISAは強力な味方となります。
独立系FPとして、皆さまが情報に惑わされず、ご家庭に最適な選択ができるよう、これからも中立的な立場から発信を続けていきます。
【注意事項】 本記事は2025年12月時点の情報に基づいています。制度の詳細は今後変更される可能性があるため、最新情報は金融庁や各金融機関の公式発表をご確認ください。また、投資判断は自己責任で行い、必要に応じて専門家にご相談ください。
【参考情報】
- 金融庁NISA特設サイト(https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/)
- 知るぽると(金融広報中央委員会)(https://www.shiruporuto.jp/)
- 令和8年度税制改正大綱


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