なぜ、ファイナンシャルプランナーが海洋散骨クルーズをはじめたのか

 株式会社ウィンカムはお金の相談に乗るプロフェッショナルです。そのFP事務所が、なぜ海の上で遺骨を撒くサービスを始めたのか。最初に聞いたとき、首をかしげる人も多いでしょう。

ファイナンシャルプランナー(FP)といえば、老後の資金計画、保険の見直し、住宅ローンの相談——そういったイメージが世間一般には根強い。

 本稿では、海洋散骨クルーズという新サービスを立ち上げた背景と想い、そして「AIには絶対にできないこと」という私たちの確信について、正直に語ってみたい。

目次

第一章 お金の話は、必ず「死」に行き着く

 FPとして独立してライフプラン作成、家計のキャッシュフロー分析、保険のポートフォリオ見直し、iDeCoとNISAの活用法、不動産投資のシミュレーション……。計算して、提案して、納得してもらって、実行支援をしていく。このサイクルを繰り返すうちに、あることに気づいた。

 お金の相談は、どんなに入り口が違っても、最終的には必ず「死」の話になる、ということだ。

 老後資金の相談をしていたAさん(当時58歳)は、計算が一区切りついたところで「先生、私、お墓をどうしようか本当に悩んでいて」と切り出した。子供がおらず、夫は先立ち、自分が死んだ後に誰がお墓を管理するのかわからない——という悩みだった。保険の見直しに来たBさん(64歳)は、「死亡保険金の受取人を誰にするか、もう一度ちゃんと考えたい」という話から、「どういう形で逝きたいか」という深い話になった。相続対策を依頼してきたCさんの家族は、財産の分割計算よりも「お父さんがどんな最期を望んでいたか」を巡る感情のぶつかり合いのほうに、はるかに多くの時間を費やした。

 「どう生きるか」と「どう最期を迎えるか」は、切っても切り離せない。老後のライフプランを設計するとは、言い換えれば「どう死ぬかまでを含めた人生の設計」をすることだ。

第二章 なぜ「散骨」だったのか

 終活関連のサービスをFP業務に組み込むとしたら、いくつかの選択肢があった。エンディングノートの作成支援、遺言書の案内、葬儀社との提携、樹木葬の紹介——。そうしたなかで、なぜ「海洋散骨クルーズ」という、一見エキセントリックな選択肢に行き着いたのか。

 理由は三つある。

 一つ目は、需要の深刻さだ。少子高齢化が進み、「お墓の後継者がいない」という問題は今や社会全体に広がっている。核家族化、非婚・晩婚化、地方から都市への人口移動——これらが重なり合い、従来の「家墓」を維持できないケースが急増している。「散骨」は、そうした時代背景のなかで静かに、しかし確実に注目を集めてきた選択肢だ。墓地・埋葬等に関する法律では、節度ある方法での散骨は違法ではないとされており、特に海洋散骨は需要が伸び続けている。

 二つ目は、縁あって奄美大島の先にある離島、加計呂麻島での体験の特別さだ。散骨は単なる「遺骨の処分方法」ではない。残された家族が海に出て、波の上で別れを告げるその時間は、他に代えがたい「送り出しの儀式」になる。実際に海洋散骨に立ち会ったご遺族の方々は、「すごく清々しかった」「これが一番よかったと思う」と口にすることが多い。悲しみのなかにも、解放感と充実感が共存する、不思議な時間なのだ。

 三つ目は、これが最も本質的な理由だが——「このサービスは、AIには絶対にできない」という確信だ。

第三章 AIにできないこと、人間にしかできないこと

 昨今、金融・FP業界でもAIの波が押し寄せている。家計診断アプリ、ロボアドバイザー、AIによる保険の自動比較——。かつてFPが時間をかけて行っていた計算や情報整理、知識のアウトプットの多くは、今やAIが数秒でやってのける。これはFP業界にとって脅威であると同時に、「では人間のFPにしかできないことは何か」を問い直す機会でもある。

 私の答えは明確だ。AIにできるのは「情報処理」であり、「感情の伴走」はできない。

 お金の相談とは、突き詰めれば「その人がどう生きたいか」「何を大切にしているか」「何を恐れているか」を聞き出し、それに寄り添いながら一緒に答えを見つけていく作業だ。そこには、感情に寄り添い、「実はこんなことが気になっていて……」という言葉にならない声を拾い上げること——そういった、人間同士の関係性の中でしか生まれないやり取りがある。

 海洋散骨クルーズは、その最たる例だ。

 船の上で、大切な人の遺骨を海に還す。その瞬間、ご遺族は笑ったり泣いたり、思い出を語ったり黙って海を見つめたりする。花びらを撒く手が震えている。「ありがとう」という声が風に消えていく。そういう場に、AIは立ち会えない。「適切な言葉をかける」「そっと距離をとる」「一緒に手を合わせる」——これは人間にしかできないことだ。

 私たちがFP事務所として海洋散骨クルーズに取り組む意味は、ここにある。単に「散骨の手配をする業者」になりたいわけではない。ライフプランの伴走者として長年関わってきたクライアントの「人生の最期のページ」に、誠実に向き合いたい。それが、この新サービスの本質だ。

第四章 「どう生きるか」と「どう死ぬか」は同じ問いだ

 私がFPとして最も大切にしていることは、「数字の正確さ」はもちろんだが、「その人らしい人生の設計をサポートすること」だ。何のためにお金を貯めるのか、資産運用をするのか。将来の夢や目標は何か。何を次の世代に残したいのか。老後のお金の計画を立てるとき、私は必ずこういう問いをクライアントに投げかける。

 そしてこの問いは、「どう死ぬか」という問いと表裏一体だ。

 たとえば、「子供に迷惑をかけたくない」という気持ちが強いクライアントは、葬儀やお墓のことも「できるだけシンプルに、残す人の負担を最小限に」と考えることが多い。海洋散骨はそういう方の選択肢として非常にフィットする。「どう逝きたいか」は「どう生きてきたか」の延長線上にある。

 終活という言葉が普及して久しいが、まだまだ「死の準備」というネガティブなイメージで捉えている人は多い。しかし私は、終活とは「残りの人生をより豊かに、自分らしく生きるための作業」だと思っている。死について真剣に考えることで、はじめて「じゃあ今をどう生きるか」が明確になる。海洋散骨クルーズというサービスは、その入り口になり得る。「海に撒いてほしい」という希望を家族に伝えておくことは、自分の価値観や人生観を共有する行為でもあるからだ。

第五章 一艘の船から見えた景色

 実際に海洋散骨クルーズをはじめて、私自身の「お金と人生」に対する見方が大きく変わった。

 あるご遺族のケースが忘れられない。80代の男性を亡くされたご家族で、故人は生前「葬式もお墓もいらない。海に返してくれればいい」と繰り返しおっしゃっていたそうだ。最初はご家族も戸惑っていたが、実際に船に乗り、青い海の上で遺骨を撒いた瞬間、お孫さんが「おじいちゃん、ここにいるんだね」と言った。それを聞いたお母さんが泣き崩れて、みんなで泣いて、笑って、その後は不思議と和やかな空気になった。

 また、別の機会には、生前から散骨の計画を一緒に立てたクライアント本人が、病床から「来年の春、桜の頃に散骨してもらいたい」とリクエストしてくださり、その希望通りに実施できたこともあった。「自分の最期を、自分でプロデュースした」というその方の笑顔は、今も目に浮かぶ。

 こういった経験を重ねるたびに、私は確信を強めている。FPが「お金」だけを扱う時代は終わった。これからのFPは、クライアントの「人生全体」に伴走するパートナーでなければならない、と。

第六章 「人間らしさ」を武器に——これからのFPの役割

 AI時代において、専門職が生き残るためには「AIとの棲み分け」を明確にする必要がある。情報処理と計算はAIに任せ、人間は「感情・関係性・物語」の領域で価値を発揮する。この棲み分けは、FP業界においてもはっきりしてきた。

 海洋散骨クルーズは、私たちFP事務所の「人間らしさの宣言」でもある。数字だけではなく、人の人生の始まりから終わりまでに寄り添うこと。計算ではなく、対話を大切にすること。効率ではなく、意味を追求すること。それが、私たちの事務所のアイデンティティだ。

 実際、このサービスを始めてから、既存クライアントとの関係性が明らかに深まった。「散骨のこと聞いたよ。実は私もずっと気になっていて」という連絡が相次いだ。その人の「死生観」「価値観」「人生で大切にしてきたもの」が、自然と語られるようになった。それは結果的に、より精度の高い、その人に本当に合ったライフプランの設計にもつながっている。

 「終活はネガティブなものではなく、豊かな老後を送るための大切な作業だ」という認識が、少しずつ社会に広がっている。その流れのなかで、FPが終活の入り口を担うことは、自然な進化だと私は思っている。お金の専門家が「死後」まで視野に入れてサポートすることで、クライアントは「人生の設計」を本当の意味で完成させることができる。

おわりに——海の上で、人生の意味を問い直す

 海洋散骨クルーズを一言で表現するなら、「新しいステージへの旅立ち」だ。

 私たちは、独立系FP事務所として、これからもと「人生設計」に真摯に向き合い続ける。AIが進化するほど、人間の「感情」「物語」「関係性」の価値は高まる。私はそう信じている。

 どう生きるか——それは、どう最期を迎えるか、という問いと同じだ。そしてその問いに、一緒に向き合い続けることが、私たちFP事務所の存在理由だと思っている。

 今日も船は、青い海の上を走る。波の音とともに、誰かの大切な人が海に還っていく。その場に立ち会えることを、私は誇りに思っている。

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